伊坂幸太郎

伊坂幸太郎「クジラアタマの王様」

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久しぶりに伊坂さんの小説を読んだ気がする。

数年前に何作か長編を読み始めて挫折してから、ちょっと遠ざかっていたのだけど、これは本当、面白かった!!!

3分の1くらいまで読んでからは、この小説の世界観が理解でき、そこから先が気になって、数日で一気に読んでしまった。

 

あらすじ

「あらすじ」というのは説明しづらいのだけど、この小説は、面白い構造でできている。

挿絵ならぬ「挿マンガ」のようなものが、小説を読んでいると唐突に登場するのだ。

「挿絵」というのも、あまり規則性はなくて、ランダムに入れられていることが多いように思うけれど(というか、雑誌や新聞の連載の場合は、スペースが空いたら入れる感じ? 子供向けでない限り、挿絵が入っている小説ってあまり読まないな)、この「挿マンガ」も、特に「章の終わり」などと決めずに現れる。

しかも小説の内容は、菓子メーカーの「広報部(クレーム対応含む)」に勤める会社員の日常、みたいな体で進むのに、「挿マンガ」は、中世の騎士が化け物退治に行く、みたいな設定で書かれていて、最初は「うん???」となる。

挿絵を無視して小説を読むように、最初は「挿マンガ」も無視して読み進める。

ただ2章くらいになって、ようやくこの小説の構造が明かされる。

(第1章を純粋に楽しみたい人は、下の青字部分は読まないでください!)

どうやらこの小説には「現実世界」と「夢のなかの世界(夜見る方の夢)」があり、挿マンガが描いているのは、夢の中の世界の話のようだ、と。

そして、「夢のなかでの戦いに勝つと、現実世界で出くわした問題がいい方向に解決するのではないか」という説が出てくる。

おぉ、なるほど、と。

主人公は先にも書いたように、普通のサラリーマンなのだけれど、仕事上、プライベート両方で色々な「問題」にぶちあたる。そして、途中で出会う「仲間」たちも。

それが本当、ハラハラドキドキして展開が気になるし、会話はいつもの伊坂ワールド全開で「くすっ」と笑えるし、設定もよく考えると「そんなことないでしょう」って感じなのだけど、不思議と全部受けいれられてしまう感じ。

いい感じの「伊坂ワールド」を久しぶりに体験できて、「あ~、やっぱ、伊坂さん好きだわ~!」って思えた本だった。

 

努力する天才

本当、伊坂さんの作品は独特の世界観があって、すごい。

奇抜なのだけれど、すっと入り込めてしまう不思議な設定を作る力と、くすっと笑わせる会話を作る力は、もう「天才」としか言いようがない!

以前、伊坂さんのインタビューかエッセイで読んだのだけど、伊坂さんは、「現実世界からほんの少しだけ浮いた異世界を描きたい」と言っていた。まさに、伊坂さんが作っているのは、そういうワールドだと思う。

そしてもう一つ、インタビューで印象に残ったのは、「長編小説では常に新しい挑戦を入れていきたい」というような言葉。

確かに、伊坂さんの短編は、どれも「THE 伊坂ワールド」ってものが多くて、安心して楽しめるのだけれど、長編には当たり外れがある(ように私は思う)。

ただそれって、「忙しくて質が落ちた」という「外れ」じゃなくて、その回の「実験」が単純に私好みじゃなかったというだけのこと。

短編はいつも同じように面白いのに、長編の印象が変わるというのは、まさに伊坂さんが意図した通りで、それもまたすごいな、と。

普通、成功したら、それを続けちゃうと思うのだけど、一回一回自分の型を破って、次に挑戦していく、でも短編では質を担保するって、むっちゃ、頭いいし、なかなかできないことだと思う。

そういうインタビューでの発言もあって、私は伊坂さんを「努力する天才」と思っている。

「天才」が努力しちゃったら、そりゃ、すごいでしょう、と。

 

ジャンル横断でなく、ワールド横断

作品のテイストは違うのだけど、私がもう一人「努力する天才」と思っている作家は、道尾秀介さん。

道尾さんの作品もすごい好き。

ただ、私はホラーが苦手なので、初期の頃の作品には読めていないものも多い。デビュー作もあまりしっくりこなかった。

ただ、道尾さんは書くたびに、自分のテリトリーを広げている感じがする。すごい純文学っぽいものから、ライト文芸っぽいエンターテイメントまで。ミステリーが主軸なのだろうけれど、ミステリー作家という括りでは説明できない幅広さがある。

で、私の中で、道尾さんは「ジャンル横断」して、様々な作品を書く人。

それに対して、伊坂さんは、なんというか、「伊坂ワールド」というワールドがあって、そのワールドを拡大している人、な感じがする。

こういう「ワールド」がある人って、いいよなぁ。ただ、伊坂さんなどに刺激を受けて、「自分のワールドを作るぞ」って思うのはいいのだけど、伊坂さんの書き方を真似すると痛い目に遭うだろう。

むかし、吉本ばななさんがブームだったときに、多くの人が「ばななワールド」を似せて、しょぼい作品を量産したように。

ワールドは、自分で作ってこそ、価値がある。ま、当たり前の話だけど。

 

お薦め伊坂作品

私は、伊坂さんの作品を読んだことがない人には、『チルドレン』を絶対に薦める。

連作短編集で読みやすいし、「伊坂ワールド」が誰にでも受け入れやすい形で提示されている作品集のように思う。

(実際私も、人から『チルドレン』を勧められて、そこからはまった)

その次に人に薦めたいのは『鴨とアヒルのコインロッカー』(長編)だったのだけど、それにこの小説を加えてもいいかもしれない。

伊坂さん初心者にも、楽しめる世界の気がした。

 

おまけ(ややネタバレありのエイブラハム的考察)

あとこの小説の最後は、「結局、夢が先なのか、現実が先なのか」みたいな岐路に主人公は立たされる。

「この現実を有利に変えるには、今、眠って、夢の中で戦って勝たなくてはいけない」と。

なんかこれって、エイブラハムの話にも勝手にリンクしちゃった。

結局、現実世界を変えるためには、現実を変えようと行動するより、まずは自分の心(波動)を整えることでしかない、と。

主人公が結局、どういう選択をして、どういう結末になるかは書かないけど、結末まで読んで、「地に足の着いたスピリチュアル」のお手本を見たようにも思った。

きっと、どんなジャンルでも成功している人って、この世の法則を理解しているようにも思うんだよね。

と、ここはエイブラハム好きによる、ただの蛇足でした。

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