良かった。
すごく良かった!
Contents
児童文学の色はまったくない
この作品は直木賞を獲ったもので、一時期話題になっていたから気にはなっていたのだけれど、森さんは「児童文学作家」の印象が強く、前回読んだ「DIVE」は、なかなかおもしろく読めたのだけれど、子供向きで、マンガを読んでいるようなテイストだったので、正直、今回の作品もそんなに期待していなかった。
でも、こんなにタッチからテイストからすべてを変えられるのだなと驚くくらい、「児童文学」の色はまったくなく、非常に上質な、大人向けの、深みのある作品集だった。
テイストの違う6つの短編
この本は6つの短編作品で構成されていて、6つの作品にはなんのつながりもない。
この6つにしても、それぞれ違う作家が書いたオムニバスと言われても納得してしまいそうなくらい、全然視点も書き方も違う。
ただ、帯に書かれているように「大切な何かのために懸命に生きる人たちの物語」という共通のテーマにだけ貫かれている。
最後の「風に舞いあがるビニールシート」は、難民を支援する国際機関を舞台にした話だし、6つのなかには決して明るくはないテーマも含まれている。
すべてが思うようにいくわけではないし、むしろ、思うようにいかないことのほうが多い。
普通の大人の人生がそうであるように。
ただ、そういう上手くいかないことの多いなかで、それでも必死に何かを守ろうとしたり、何かを得ようとしたりして、みんな、頑張っている。
その一生懸命さや、まっすぐであるがゆえの不器用さなどが、非常に良かった。
ひとつひとつの話を読みながら、自分の人生にも上手くいかないことは色々あるけれど、もっとできることを頑張っていこう、と明るい気持ちになれた。
小説の世界を超えて現実に働きかける
先が気になったり、読んでいて楽しいと思える作品はたくさんある。
でも、「もっと頑張ろう」とか「きっと生きていればいいことあるよね」とか、小説の世界を超えて、自分の抱える世界にまで影響を及ぼしてくるような作品には、久しぶりに出会った気がした。
そして、本来、小説を読む楽しみって、こういうものだったな、なんてことを思い出したりした。
(昔大好きだった、鷺沢萌さんの「海の鳥・空の魚」を思い出し、久しぶりに読みたくなった。あの本も、日常の中で一生懸命に生きる人たちを主人公にした、元気をくれる作品だった)
正直、1作目はよさがよく分からなかったけれど、最後の「風に舞いあがるビニールシート」と、「ジェネレーションX」が良かった。
「風に舞いあがる......」は、良かったけれど、ここから読んだらダメだと思う。色々な人の懸命な人生を味わった最後に、この話を読むことに意味がある気がした。
本当、お勧めなので、是非、読んでください!
風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)
文藝春秋 2009-04-10 |