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宮本輝「優駿」

やっぱり宮本輝は別格!

久しぶりに宮本輝の作品を読んだ。「優駿」は20歳前後の頃に読んだと思うので、約20年ぶりの再会。

20年経って読み直すと、より、宮本輝という作家の筆力、構成力とか、人間観察の鋭さが感じられる。

基本的に私は、古典的な作家(三島由紀夫とか太宰治など)は呼び捨てにし、まだ存命の作家は〇〇さんと書くのだけれど、宮本輝は、私の中では、三島とか太宰と並ぶような"文豪"だなぁ。ということで、「さん」づけなしで。

 

決して「馬の話」ではない

「優駿」は映画にもなったし、非常に有名な作品なので、「あぁ、競走馬の話ね」くらいは、多くの人が知っていると思う。

私自身も、若い頃に読み、「馬の話」と記憶していたのだけれど、改めて読み返してみると、決して「馬の話」とはまとめられない、人間の愛とか欲とか弱さとか汚さとか、純粋さとかまっすぐさとか......ものすごく奥深い「人間模様」の話だった。

 

たとえばオラシオン(主人公?の馬)の生産者の息子と、所有者の娘との出会いと恋。その格差のある恋心故に、背伸びをし、自分の牧場をもっと規模の大きい立派なものにするのだと頑張るその息子の奮闘ぶり。

また、オラシオンの所有者の会社の危機と、彼が妾に産ませていた息子との再会。

その会社の存亡をめぐる、オラシオンの所有者と、実の息子のような絆で結ばれていたはずの秘書との変わっていく関係。

オラシオンの騎手になる男が背負ってしまった暗い過去......。

 

この小説は、オラシオンがうまれ、三歳になってダービーに出るまでの三年間を書いているのだけれど、それはオラシオンの成長の記録ではなく、その三年にオラシオンの周りで起きた様々な出来事の記録になっている。

そしてその一つ一つのエピソード、一つ一つの出来事における人々の心の動きが非常に巧みに、精緻に描かれている。

情景描写、心情描写とも卓越で、「文学」としても素晴らしい上に、構成やストーリーも計算尽くされていて、途中で読む人を決して飽きさせない「エンターテイメント性」もある。

 

上手すぎる! 特に視点の使い方が秀逸

宮本輝は「泥の河」でデビューする前、「新人なのにうますぎる」という理由で新人賞を獲れなかったという話があるけれど、宮本輝の魅力は、「粗削りながらも、きらりと光る個性(←新人賞では、結構こういうのが好かれるように感じる)」ではなくて、しっかりとした努力に支えられた「王道の上手さ」なのだろう。

 

特にこの「優駿」では、章ごとに視点人物を変えているその作りが非常に生きている。

5人の視点で始めの5章が書かれ、さらに6~10章も同じ人物の視点で二順目、書かれ、最後の「終章」だけは、その五人全員の視点が細かく移り変わって、クライマックスのシーンを盛り上げている。

 

社会や人間に対する鋭い視点は、一朝一夕で真似できるものではないけれど、構成の立て方や視点の使い方は勉強になる。

 

この本は上下巻あって長いのもあり、1か月以上かけてのんびり読んでいたけれど、奇しくもダービーの日に読み終わった。

実際の競馬についてはまったく知識はないけれど、今日のダービーの影にもきっと色々なドラマがあったのだろうな。

優駿〈上〉 (新潮文庫)優駿〈上〉 (新潮文庫)
宮本 輝 

 

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