ノンフィクション

トニー・パーカー「殺人者たちの午後」

実際に殺人を犯してしまった人というのは、どんな気持ちなのだろう、と気になり、犯罪心理学関係の本を探していて、出会った本。

 

素晴らしいインタビュー力と文章力

海外の本は、翻訳された日本語の不自然さが苦手で、あまり手に取ることはないのだけれど、この本は、「これぞノンフィクション!」という、優れたインタビュー力と文章力を感じられる逸品だった。

筆者は名インタビューアーとして有名な人のようだし、訳者は沢木耕太郎。そりゃ、うまいわけだ。

 

この本は、10人の殺人犯へのインタビューで構成されている。

そのため、一人ひとりに対するインタビューは30ページほどで、決して長くはない。しかし、その短いなかでも、

  • 事件を起こした頃のその人の状況
  • どんな関係の人をなぜ殺してしまったのか
  • 事件を起こしたとき、どんなことを感じたか
  • そのあとの生活はどんな感じか

など、事件前から事件後までのことが、読む人にしっかり伝わってくる。

 

10人のなかには.....

  • 妻の外出中、幼い息子と娘の面倒を見ていたとき、以前から自分に懐いていないと感じていた娘(赤ん坊)を、魔が差して殺してしまった男
  • 普段はとても仲が良かった祖父を、その日、お小遣いをくれなかったという理由で、衝動的に殺してしまった男
  • 自分から恋人を奪いそうになった女を殺したが、特に殺した女性に対して罪悪感は抱いていない様子の女

    など、色々な人がいる。

 

表には出てこない作者の人柄を感じる

事件時のことを語る10人の言葉を読んでいると、殺人というのは、決して自分とは無関係のところにあるできごとではなく、なにかちょっとしたきっかけで、事故のように起こってしまうものなのかもしれない、と感じた。

 

そう感じたのは、10人が、あまりに「人間的」だからなのかもしれない。

ちょっと魔が差して娘を殺してしまった男は、元妻から改めてやり直そうと再婚を求められても、自分には幸せになる資格などないとはねつけ続ける。

かと思うと、刑務所で知り合った相談員と親しくなり、出所後、結婚しようとする男もいる。

 

その価値観はちょっとおかしいのではないかと感じる相手もいたけれど、ほとんどの人に対しては思わず、共感を抱いてしまった。

 

それはきっと、作者の力だと思う。

トニー・パーカーは、相手が殺人犯であっても、ただ一人の人間として、相手の意見を尊重し、話を聞いている。

すべてを受け入れる姿勢を見せているからこそ、相手も作者を信頼し、心の深いところまで話をし、また、次のインタビューの日を楽しみに待つのだろう。

 

すべてのインタビューで、作者自身はほとんど表にでてこず、最初の状況説明以外は、殺人犯本人の口から一方的に語られるような形で書かれている。

それでも、とても人間的な殺人犯の向こうに、どんな人に対しても心を開き、全身で相手を受け止めている作者の存在を感じた。

内容もその控えめな描き方も、非常に心に残る傑作だった。

うまいノンフィクションって、大好き。

殺人者たちの午後殺人者たちの午後
トニー・パーカー 沢木 耕太郎 

 

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