作家活動 舞台「パキラ」全記録

脚本「パキラ」ができるまで

「小説を書いてみたいんですけど、どうしたらいいんですか?」
と訊かれることがある。

小説の書き方に決まった型はなくて、色々な小説家の人に聞いても千差万別。

だから私が語れるのはあくまで「私のやり方」だけど、

先日書いた脚本「パキラ」の場合、
Happyさんの「原案」があり、そこからイメージを膨らませていったので、それは説明しやすいなと思った。

で、インスタグラムに4回に渡って、その過程を書いてみたのだけれど、こちらにもそれを投稿してみる。

公演自体は8月なので、仕上がった脚本は見せられないのだけれど、それが読めなくても、創作過程はつかめると思う。

また、公演後に読み返してもらえたら、より面白いかと。

構想メモ1

私の場合、小説でも脚本でも、
キーワードという「点」をまず出し、それをストーリーという「線」にしていく。
 (線はいずれ紡がれ、「面」になる)
 

「パキラ」の場合は、
先に原案があり、そのキーワードはざっくり3つだった。
(このポイントの拾い方もきっと人それぞれだろうけど)
 
①1000年に1度咲く「パキラの花」
 
②そのパキラの花を巡る「天使と悪魔の対立」
 
③天使と悪魔はお互いのなかに「自分の一部」を見つけ、和解
 


最初に考えたのは、
「天使と悪魔の対立」
=ファンタジー
=私の書くものの範疇じゃないから無理そう(笑)
 
 
でも、ファンタジーだけで世界を構築するのは無理だけれど、
自分が得意な「リアルな世界のなかに存在するファンタジー」なら書けるぞ、と思った。
 
 
それでまずは二重構造の構成にしようと決めた。
 
現実に近い世界に生きる少女と、その少女の紡ぐ物語という構造。


 
それとほぼ同時に自分の中に浮かんだのは、
 
「1000年に一度咲く花」というキーワードから連想された
「1000年前の種から咲いた蓮の花」
 
 
20年くらい前かな、
何千年も前の蓮の種から、花を咲かせることに成功した、というニュースがあった。
 
それで、1000年前の蓮が温室の中で咲くのをじっと待っている少女、のイメージが湧いた。

 
O・ヘンリの「最後の一葉」みたいに、
自分の未来をそこに賭けているような切実な女の子。
 
最初は「車椅子の少女」だったけれど、それは途中で変わる。
 
  
でも、「物語を紡ぐ少女」と「1000年前の蓮の種」のキーワードが残る。
 
この「1000年前の蓮の種」は
「1000年に1度咲くパキラ」と中盤、呼応していく。
 

 
天使と悪魔は最初、
 
「すべての愛を持つ天使のような人気者。
すべてのパワーを持つ悪魔のような実力者。
私にはどちらもない」
 
というようなキーワードになっている。
 
 
でも、この部分は次のメモでは跡形もなく消える(笑)
 
 


そんなふうに、最初は手探り状態で、思い浮かんだキーワードなり、シーンなり、登場人物の姿を闇雲に書いていく。

これは「原案」があった今回も、本当に真っ白なゼロから何かを書き始めるときも同じ。

 

複数のキーワードから、すっとストーリーの筋が見えてきたときが、「うおぉぉ」と、興奮するとき。

でも1ページ目のメモを書いていた頃は、まだまだ霧の中。

 

構想メモ2

構想メモ2ページ目もまだ霧がかっている。

ただここで、ふと「翠玉」という言葉が浮かぶ。

「翠玉」というのは、エメラルドのことらしい。
「翠(すい)」とは緑。

あまりに「ふと」浮かんだので、この「翠」を物語を紡ぐ少女の名前にする。

 

そしてここで論理的に少し考える。

「一人で考え事をしているだけでは、ストーリーが進まないから、聞き手を考えないと」と。 

最初、翠は温室通いをしている設定だったので、
その温室や庭園を管理する仕事をしている庭師の若い男性を聞き役として作ることにした。

 

同時に、「天使と悪魔」の方も行き詰っている。
 
ただ、翠の作り出す物語のなかは、
古典演劇っぽい、荘厳な雰囲気のものにしたいと思う。

それで2ページ目に、
「どこかの国の中世。騎士たちの争い」
と書いている。

そこでなぜか、読んだこともないのに、
スタンダールの「赤と黒」という本のタイトルが浮かび、「情熱の赤」「権力の黒」などとここには書いている。
 
「赤」と「黒」の対立は、
そのあと「白」と「黒」の対立へと形を変え、脚本「パキラ」の柱になっていく。


このあたりで本格的に行き詰ってきたので、久しぶりにシェークスピアの「マクベス」を読む。

世界の黒い感じと、最初に謎めいた予言を始める3人の魔女のイメージに惹かれ、
 
原案では「ピエロ」とされていた物語全体を俯瞰する役を「魔女」に変えることにする。

まだストーリーは良く見えていないけれど、2つの世界の世界観はこのあたりで固まってきている。

 

構想メモ3

悪魔と天使の物語の方を考えていて、一つ思い出したことがあった。
 
 
「私、大学時代、謎に『天使学』という授業を受けていた」と(笑)
 
1年間、週1回「天使」についてだけ学ぶという、文学部だから許されるような不思議な授業。
 
 
ただその先生が面白くて、なかなかに楽しい授業だったような記憶がある。
 
そしてそのなかで一つ強烈に印象に残っていたのが、
 
先生が『ドラゴンボール』の「神様」と「ピッコロ大魔王」について力説していたシーン!
 
 
先生は言っていた。
 
「あの『神様』は、
自らの悪を吐き出すことによって、
自分のなかにはもう善しか存在しないと
証明したんですね。
(吐き出された悪がピッコロ大魔王)」

 
 
よほど『ドラゴンボール』が好きだったのか、
ものすごい力説っぷりで強烈にその話は印象に残っていた。

脚本「パキラ」には、結局悪魔も天使も出てこないけれど、
この「悪を吐き出して、善を証明する」というイメージを採用することにした。

でも「100%善」なんてあるのか?

 

夏目漱石も『こころ』で言っている。

「鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。
平生はみんな善人なんです。
それが、いざという間際に、急に悪人に変わるんだから恐ろしい。
油断ができないのです

 

そんなこんなで、
脚本「パキラ」の主要テーマは気づくと「天使学」の先生に導かれるように(笑)、
「完全な善などあるのか?」になっていった。

これは、Happyさんの原案にあった
「天使も悪魔のなかに自分の一部を見つける」にも呼応する。

 
そして、この部分が決まったところから、
 
「自分は完全な善だ」と信じる「白」をまとう「光の国」が、
 
「自分の吐き出した悪」が眠ると信じる「黒」をまとう「闇の国」を恐れ、闇や悪の侵略に怯え、
 
怯えるがために、先手を打とうと自ら戦いを仕掛けていく物語が動き出した。

 

構想メモ4

「少女が紡ぐ物語」の内容が見えてくるのと並行し、「少女」と「庭師」についても、新しいアイディアが浮かぶ。
 
最初「庭師」は、日本に働きに来ている貧しい外国の子というイメージだったのだけれど、
 
「そもそもこの舞台自体を、日本よりちょっと貧しい感じのアジアのどこかの国にしよう」と思う。
 
 
すると、
「あ、この国は長い戦争のさなかなのだ」と分かってくる。
(自分の創作物なのに「分かる」って言い方は変だけど、感覚的にはそんな感じ)
 
これで、
「少女が実際体験している戦争」と、
「少女が紡ぎ出す物語の中の戦争」という構図も仕上がる。

 

このあたりで、「お、これはもう、書けるんじゃない?」となり、そこで初めてパソコンに向かう。
 
 
始めからパソコンに向かう人もいれば、
もっと緻密な構成を立ててからでないと書き始めない人もいるだろうけれど、
私は大体これくらいの「見え方」で、実際に手を動かし始める。
 
 
これくらい見えていれば、
登場人物は勝手に動いてくれるし、勝手に増えていってくれる(笑)
 
 
私は目に見えるシーンを急いで文字に落とし込む作業を始める。
 
小説を書いているときは、
見えている映像を正確な文章に落とし込むためのボキャブラリーの少なさにがっくりきたり、苦しんだりすることもあるけれど、
脚本は基本台詞だけでいいから、意外と楽。
 
 
書いているときにも、
「うわ、そういうことだったのか」とか
「なるほど、そうなるか」みたいな
感覚を味わう。
 
物語は生まれたら、あとは勝手に育っていく。
 
 
勝手に育っていかないときは、
まだ書くべきときが熟していなかった、ということ。
 
書いた文章は消し、設定のどこかを直し、また一から書き始める。
 
もしくは、しばらくそのテーマは寝かせて、他の作品を作ることにする。
 
 
でも幸い、「パキラ」はものすごく順調に進んでいった。

 

参考になったか分からないけれど、
こんな感じに私は普段から創作している。

 

「パキラ」はこのあとも育っていくのか。
 
私自身も楽しみだし、是非、8月の完成型を多くの人に見てもらいたい♪

 

★「ザ・パキラ ~善と悪 光と闇の物語~」★

2021年8月15日(日)~17日(火)
北千住 1010シアターにて上演

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