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近藤史恵さんの代表作
自転車競技(ロードレース)の世界を舞台に描かれた近藤さんの代表作。
近藤さんの作品は、以前、他の作家とのオムニバス短編集で読んだことしかなかったが、それだけで「近藤さんはこういうものを書く人」と、分かったつもりでいた。
でも今回、知り合いに薦められて、この作品を読んでみて良かった。
やっぱり作家を知るには、代表作を読む必要があるな、と切に感じた。
この作品は、本当に、設定から、アイディアから、構成から、非常にしっかりとしていて、読み終えたあと、「うわ、やられた」という感じだった。
文庫の背表紙いわく「青春小説とサスペンスが奇跡的な融合を遂げた」作品らしいが、スポーツの世界のもつ爽やかさと、サスペンス小説の持つ人間描写の深さや"してやられた"感がしっかり味わえる秀作!
ありえるかも、という絶妙なバランス
この小説はある一人の人物がキーになっているのだけれど、「こんな人、いないんじゃない」と「もしかしたらいるかも」のきわどい線で、その人がしっかり描かれているのがいい。
「事実は小説より奇なり」と言うけれど、小説もやっぱり「当たり前」ばかり書いていてはつまらない。でも、そうはいっても、「あり得ないよ」と読者に思わせてはいけない。その突飛さと、納得感のバランスって大事だな。
あとこの小説の一番すぐれているところは、ロードレースという一般にはあまり知られていないけれど、特殊なルールによって築かれた世界が舞台になっていることだろう。
サクリファイス(犠牲・生贄)の意味が最後、効いてくる
ロードレースには、決して名前は残らないけれど、チームのために、チームのエースを優勝させるためにだけ必死に戦う「アシスト」という立場の選手がいる。
その、チームの勝利、エースの勝利のためにある種、自らを「犠牲」にする人間の存在がある競技だからこそ、このストーリーは成り立っている。
ラストはちょっと衝撃的だけれど、素直な心を持った人なら、純粋に感動できるストーリーだと思う。
文庫で300ページ弱と読みやすい長さだし、次に読む本に迷ったら手に取って欲しい。
サクリファイス (新潮文庫) 近藤 史恵
新潮社 2010-01-28 |