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砥上裕將『線は、僕を描く』

Amazonさんにお薦めされ、何気なくkindleでサンプルを読み始めたら、先が気になってしまい、読み始めた本。

第59回メフィスト賞を受賞し、「王様のブランチ」に取り上げられて話題になり、本屋大賞にもノミネートされた作品らしい。

 

静かに染みてくる良さ

一言で感想を書くと、
いやぁ、本当に良かった!!!

なんかもう、しみじみ良かった。

ものすごく整っていて、ピュアで、静かに染みてくる。

最後の方、泣きながら読んでいたんだけど、「泣かせてやるぞ」みたいなあざとさは全然なくて、ものすごくすべてが自然で、だから涙もさらさらと止めどなく流れた。

 

『線は、僕を描く』概要

本の内容を簡単に紹介すると、

両親を事故で喪い、心を閉ざした主人公が、ひょんなことから水墨画の巨匠と出会い、気に入られ、弟子入りを果たす話。

その巨匠の孫娘にライバル視され、「来年のコンテストで勝負しましょう」みたいに言われ、物語は一応そこに向かって進んでいくのだけれど、それは「エンタメ」のための表向きの主題に過ぎない。

 

この本が本当に描いているのは、「表現とは何か」「生きるとは何か」「生きるものとして表現するとはどういうことか」に尽きる。

作者は実際に水墨画の絵師でもあるらしく、主人公や水墨画の巨匠、弟子たちの表現に向かう姿勢を通して、作者の表現に対する姿勢が伝わってきて、なんか本当にすごいなぁ、と思った。

「線は、僕を描く」の世界の整い方、静けさ、温かさ、優しさは作り物ではなく、作者の中に本当にあるものだと思え、心を打たれる。

表現についての記述には、私も表現者の端くれとして、“もう、本当にごもっともです”と、何度も思わされた。

 

水墨画にも興味が湧き、次に美術館や博物館で雪舟などの絵を見たら、今までと違うことを思うのだろうと感じたけれど、でもやっぱり私は文章で表現したい、という想いもまた新たにした。

 

心に残った言葉

まじめというのはね、悪くないけれど、少なくとも自然じゃない。

(略)水墨は、墨の濃淡、潤滑、肥痩、諧調でもって森羅万象を描き出そうとする試みのことだ。その我々が自然というものを理解しようとしなくて、どうやって絵を描けるだろう?

水墨画は孤独な絵画ではない。水墨画は自然に心を重ねていく絵画だ。

(略)自然との繋がりを見つめ、学び、その中に分かちがたく結びついている自分を感じていくことだ。その繋がりが与えてくれるものを感じることだ。

才能やセンスなんて、絵を楽しんでいるかどうかに比べればどうということもない。

現象とは、外側にしかないものなのか? 心の内側に宇宙はないのか?

絵を描くことは自分の考えや言葉から抜け出すことだ

 

ただこの本の良さは、全体を読んで初めて味わえるものだと思う。

すでにコミック化され、今年秋には映画化されるらしいけれど、きっと本からしか得られないものはあると思う。

それは、作者の想いであり、表現であり、醸し出す周波数とか何かしらのもの。

是非、読んでみて欲しい。

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