芥川賞受賞作の中には、読み進めるのに苦労し、途中で挫折してしまうものも多いのですが(私の場合)、又吉さんのこの作品は、楽しく読める、しっかりと構成も立てられた作品でした。
内容は、売れない芸人である主人公の日常なのですが、同じように売れていないけれど、人に迎合することなく自分の信じる「笑い」を追求する「先輩」の存在があることで、非常にふくらみのある作品になっているように感じました。
その「先輩」が「売れている先輩」だったり、笑いについて語り合う相手が相方や恋人だったりしたら、この小説は非常につまらない、ありきたりな「夢を追う若者」の話になっていたかもしれません。
人生においても、誰と出会い、どう人と関係性を築いていくかが重要ですが、小説においてもそうなんだな、と感じる作品でした。
最初に花火のシーンから始まり、最後にまた、まったく別の設定で花火を見るシーンがある、その工夫が「文学的」で、良かったです。そこで先輩が呟く言葉が、なんだかしみました。
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本当に文学を愛していたら......
又吉さんは、太宰治をはじめ、様々な(基本的に純文学)小説を読んでいるようですが、批評家はこの作品を「今までの文学史をしっかり踏まえ、その上で、自分が次にどんな点を付け加えるべきか、考えられて作られた作品」と評していました。
私はそこまでしっかり「文学史」が頭に入っていませんが、確かに又吉さんの作品は、普段から本気で文学を愛している人だからこそ書けた作品のようには感じました。
又吉さんはお笑い芸人ですから、よくテレビにも出ていますが、本を読むときは、「最初の1行からワクワクしながら読み始める」などとも言われていました。
私はそこまで小説をワクワクしながら読めているだろうか......と思ってしまうコメントでした。
また又吉さんは、もともと有名だった自分が芥川賞を獲り、小説というものに多くの人が注目することで、文学界全体がもっと盛り上がったら嬉しい、と言われていました。
小説家になりたいと思っている人は多いと思いますが、そういう人の多くは出版業界の不調を嘆くだけで、「自分が出版業界、文学界を盛り上げる」と考える人はわずかだと思います。
でも、そういうところに、本当の「差」があるのかもしれません(自分自身に対する反省も踏まえ)。
夢は小さいから叶わない
私はあまり「ザ・エンターテイメント」という感じの文体で書かれた小説が苦手なので、有川浩さんなどはあまり読まないのですが、有川さんがインタビューで、「印税の割合が少ないという人もいるけれど、私は、自分の本がもっと売れて、もっと出版業界にお金が入ればいいと思っている」というようなことを言われていたのが、非常に印象的でした。
どんな業界でも本当に成功している人というのは、目指すところが大きいですね。
以前読んだ武田双雲さんの本には、「夢は大きい方が叶う」ということが書かれていました。
自分が●●になりたい、自分が成功したい、自分の事業を成功させたい、という「自分」のことから出ない夢は叶いづらい、たとえば同じ「サッカー選手になる」という夢でも、自分のためではなく、「世界中の子供の笑顔を増やしたい」というゴールがあっての夢なら、叶いやすい、とのこと。
武田さんはそれを「ヘリコプターが来る」と表現されていました。
自分の域を超えた世の中に役立つような夢を持ち、行動を始めたとき、思いがけなく自分を引き上げてくれる存在が現れるのだ、と。
又吉さんのコメントからも、そんな夢の大きさを感じました。