その他 純文学

辻内智貴「野の風」

辻内さんの作品は、なんとなくすっと自分になじむ感じがする。

エンターテイメント的な、ストーリーの起伏はないのだけれど、人と人が出会って、ただしゃべっている感じとか、ぼんやりと景色を見て何かを思う感じだとか、あぁ、分かるなって。

 

4つの短編集

野の風は4つの短編集からなっている。

 

冒頭の「野の風」が長さとしては、その半分くらいを占めている。

「野の風」は、父の危篤の連絡に駆け付けた夫婦と子供、3人家族の話。

田舎に戻り、仕事から離れることで、いったい忙しく働き、心を失っていた自分の生活ってなんだったんだろうと思う......という、一言でいってしまえば、よくある話。

 

でも、辻内さんの作品には、それだけのことをしっかり読ませる力があるような気がする。

特に文章がうまいとか、表現が凝っているというのではないのだけれど、その自然さが逆に、読者にすんなり想いを届ける力になっているというか。

 

不自然な装置

脳死状態になり、機械につながれて命を長らえさせる父を見ながら、この社会もこんな不自然な装置なのかもしれない、と思う。

しかもその装置は人間の「欲望」をエネルギーにして、動いている、と。その感覚はとてもよく分かった。

そして、きっと辻内さん本人も、その装置の中でうまく暮らせないで、あがいている人なんだろうな、という気がした。

 

小説でも人間力が問われる?

最後は、主人公の、そんな社会の対する批判の混じった、独白(意識のない父親に対する言葉だけど)が続く。

素人がこんな書き方をしたら、一発で下読みに落とされるだろうな、というような"文学的"ではない構成だけれど、そのストレートな言葉が、まっすぐに届いた。

それは何の力なのだろう。「小説」というものにおいても、最終的には「文章力」ではなくて、書く人の「人間力」みたいなものが、問われるのかもしれないな。

なんてことを、この作品を読みながら考えた。

 

2話目と3話目も、じんわりと心に届く作品なので、お薦め。

野の風野の風
辻内 智貴

 

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