随分前から、読まないまま本棚に眠っていた本。でも、今年春の大片づけのときに捨てようかどうか迷ったあと、「残したのだから、読もう」と意を決して開いた本。
でも、これが、良かった。
近親相姦の話という前情報だけあったから、「監禁された人は、精神の健全を図るために、監禁した人を次第に好きになっていく」というような、暗くて重い話なのだと勝手に決めていたけれど、違った。
なんというか、この父親と娘は、もっと普通に仲が良い。だから、世界に入り込んでいくうちに、読んでいるほうも「別に、いいじゃん、この2人はこれで」という気持ちになってくる。
それって、桜葉さんの筆力だよなぁ。
でも、常識的には「いい」わけはなくて、それが次第に周りからじわじわと歪みになってやってきて、事件が起こったり、追い詰められていったりする。
(本の構成は、現在から過去にどんどん遡っていくスタイル。この内容を、そのスタイルで書けるというのも、また、すごい!)
決して2人のしんどい感情が表に分かりやすく現れるわけではなくて、2人の心理(特に娘のほう)が、北海道の暗い冬の海の光景に重なることで、ぐわっと立ち上ってくる感じ。
読んでしばらく経った後も、この北海道の海の情景がずっと消えない。
こういうのを情景描写っていうのだろうか。本当に力のある作家だなぁ、とただ感心。
扱っているテーマがテーマだけに、決して明るく楽しい話ではないのだけれど、文学好きなら、絶対、世界観に浸って、心地よい時間は過ごせると思う。
本当、いまさらなんだけど、今年読んで良かった本1位はこれ。
私はストーリーの面白さより、「その世界に浸れる(明るすぎず、ドロドロもしていない、ややマイナー調のグレーの世界が好きなよう)」こと重視で小説を選んでいるんだなぁ、ということを改めて実感もした本でした。