2022年に読んで、非常に心に染みた 砥上裕將さんの『線は、僕を描く』。
読んだときから映画化されることは知っていて、劇場に見に行こうと思っていたのだけれど、忙しい時期でタイミングを逸してしまった。
でもその映画がAmazon Prime Videoで会員特典になっていて、見た。
本も良かったけれど、映画も良かった!!
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Contents
余白の心地よさ
本は、世界観・空気感も素晴らしく、読んでいる時間が心地よかったけれど、
それだけではなく、真摯に表現に向き合う登場人物の姿勢や言葉に、ぐっと心を掴まれたり、
非常に密度の濃い、上質な作品だった。
それに対して、映画は、密度を落としているなという感じがした。
でもそれは決して批判ではない。
活字にできること、できないこと、得意なこと、苦手なことがあるように、
映像にもできること、できないこと、得意なこと、苦手なことがある。
この『線は、僕を描く』は、本は活字の可能性を最大限に活かす表現をしていて、
映画は映像の可能性を最大限に活かす表現をしているように思った。
映画を見て一番感じたのは、余白の美しさと心地よさ。
本から大事な部分を抜き出し、最大公約数で魅せるような作品創りになっていた。
無理にストーリーや設定を詰め込みすぎないから、
台詞や説明のないシーンや、沈黙の時間がしっかりと取れ、見ていて心が落ち着く。
舞台のほとんどは水墨画の巨匠である湖山先生の自宅のシーンなのだけれど、
裕福な人の住む日本家屋の、家具も物も少ない、“空間”を楽しむようなセットも魅力的だった。
あと、湖山先生の孫であり、弟子でもある女性水墨画家を清原果耶さんが演じているのだけれど、
この人の醸し出す透明な空気感、好きだなぁ。
朝ドラのときも思ったけれど、清原さんの存在感で、周りの空気が澄む感じがする。
……という感じに、
原作以上に、世界の感触や空気感の心地よさをふんだんに味わえる作品になっていた。
原作と微妙に違う設定やストーリー
ただ、原作を読んでから見ると、結構大事な設定が変更されていたりして、
「うん?」と思う部分はあった。
特に原作では、主人公は両親を交通事故で亡くし、その失意から立ち直れていないという部分から始まる。
その主人公の感じている、真っ白な孤独感のなかに、少しずつ水墨画や、水墨画を通して出会う人との関係が入り込み、
白を埋めていくというのが印象的だった。
でも映画では、その部分が結構変わっている。
最終的に、「なるほど、映像ではそういう設定の方が、絵として見せられるんだな」と納得したけれど、
中盤くらいまで、やや違和感は感じてしまったかな。
(原作を知らずに見たら、まったく気にならないと思うけれど)
でも逆に、なぜ湖山先生が主人公に声を掛けたかの部分は、本の方が説得力はあったけれど、映画の方がすっと心に入ってきたかな。
そんなふうに、原作と映画と両方知ることで見えてくること、感じることもあって、それもまた楽しかった。
とにかく一言でまとめると、「羨ましいなぁ」と思った。
こんな世界を描けることが。
そして、原作の魅力をちゃんと理解して、それを活かした作品創りをしてくれる映画監督に恵まれたことも。
でも、羨ましいなぁと同時に、
「この作品に出会えてよかったな」とも心から思った。
本も映画も、それぞれに良かった。
砥上裕將
『線は、僕を描く』