瀬尾まいこ

瀬尾まいこ「そしてバントは渡された」:2019年本屋大賞

瀬尾さんの本は以前から好きでよく読んでいるけれど、ついに本屋大賞かぁ、となんか感慨深い。

一応、瀬尾さんは「坊っちゃん文学賞」受賞の先輩。

私も続くぞ!

なんて思いたいけど、瀬尾さんは本当、デビュー作から、普通の「新人」とはレベルが違ったと思う。

デビュー作を読むと「プロになってから、うまくなったんだねぇ」みたいな作家の人もたまにいるけど、瀬尾さんのデビュー作は、最近の作品と比べても、どれがそうなのか分からないと思う。

それくらい初めから、すごい素敵だったし、ずっと変わらずに同じ角度から、同じテーマを書き続けている作家だとも感じる。

(全部が同じように思えるというダメ出しじゃなくて、同じ「ちょっといびつな形の家族」という設定を、よくこんな色々なバリエーションで書けるなぁ、という感嘆)

 

「普通の家族」じゃないとしあわせじゃない?

家族以外がテーマの作品もあったとは思うのだけれど、瀬尾さんといったら、「ちょっと変わった家族の形のなかで生きる思春期の子供の成長物語」というイメージが強い。

インタビューを読んだら、瀬尾さん自身も母子家庭で育ったらしい。

だからなのかな、「父親と母親と子供、という“普通の家族”があればしあわせで、そうでなければ、不幸せなんていう決めつけは、どうなの?」ということを瀬尾さんはずっと訴え続けているように思う。

ただ、訴え続けるといっても、全然重くはない。

この複雑な「家族」の問題を、ものすごく軽やかなタッチで書けてしまうのが、瀬尾さんの、ものすごい才能。

瀬尾さんの才能を分析するなら、その(変わった形の家族にだって、しあわせの可能性はある)という、人と違った「視点」と、それをユーモラスに描ける「文才」と、さりげない「構成力」なんだろうと思う。

内容はあとで紹介するけれど、この本は主要人物である「森宮さん」のキャラ設定がすごい! この人のとぼけた感じが、ものすごくこの世界観にしっくりと合っていて、何度も「くすっ」と笑えるし、重たいことも、すっと入ってくる。

もちろん、視点人物である女の子のキャラとか、脇を固める人たちもいいんだけど(意外と重要なのは、高校時代の担任の先生かもしれない)。

 

あらすじ

この本のあらすじを簡単に説明すると……

幼いころに母親を亡くした主人公(女の子)の成長物語。

父親が再婚することになり、明るく、行動力のある若いお母さん(梨花さん)ができるのだけれど、父親がブラジルに転勤することになる。

それを機に、梨花さんは父親と別れると言う。でも、梨花さんは血のつながっていない主人公に「一緒に日本で今までの暮らしを続けよう」と言う。

そして、主人公は血のつながった父親ではなく、梨花さんと暮らすことになる。そして、梨花さんが再婚した泉ヶ原さんと暮らすようになり、その後、さらに梨花さんが再婚した森宮さんと家族になる。

でも梨花さんは家を出て行き、高校生の主人公はずっと森宮さんと暮らすことになり、そこでの日常が続いている……というところから始まり、物語は過去に遡ったり、未来に進んだりする。

 

「え? そんなこと、あり?」とつっこみを入れたくなる部分がないわけではない。でも、瀬尾さんの物語の力を前にすると、「うーん、そういうこともあるのかもねぇ」みたいに説得されてしまうのが、すごいところ。

最近思うのだけど、本当にいい作品って、つっこみどころがない「完全に整った作品」じゃなくて、つっこみどころがあっても、「あれ、これでいいのかな?」と思わせちゃうほど力がある作品のように思う。

 

心に残った言葉

基本、瀬尾さんの作品は、「くすっ」と笑える台詞や設定が満載で、軽やかに読める。

ただときどき、はっとする言葉やシーンがあって、立ち止まる。笑いながら読んで、油断していたところで、「ほろり」とさせられたりする。

この話では、それぞれの親が主人公を思う気持ちの吐露に、胸を突かれる。

 

特にぐっと来たのは、森宮さんが言うこの言葉。

「梨花が言っていた。優子ちゃんの母親になってから明日が二つになったって。(略)自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって」

血のつながらない人間の親になるなんて、面倒なばかりでいいことなんて何もないはずなのに、どうして自分の親になる人たちはこんなに優しいのだろうと思っている主人公に、「三代目」の父親である森宮さんが言う。

  

他にも、家族って何だろうということの答えになりそうな名言が、この本にはたくさん散りばめられていた。

 

まとめ

一言でいうと、瀬尾さんは「可能性」を見つける天才だな、と思う。

今はもう辞めてしまったようだけれど、デビューからしばらくは、瀬尾さんは高校の先生をしていたらしい。

あぁ、こういうふうに、ちゃんと色々な人とか、色々な状況の可能性をちゃんと信じられる人が先生にいたらいいな、と思う。

きれいごとじゃない、リアルななかにある「光」みたいなものを、瀬尾さんの本の中には感じる。

こんなふうに人を信じ、人との関係を信じてみたい、と思わせる。

そういう意味で、この本は(というか、瀬尾さんの本全般が、かな)「本屋大賞」にふさわしいなと思うし、中学生、高校生の課題図書にもふさわしいと思う。

多くの人に読んでもらいたい本。

 

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「そしてバントは渡された」

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