小川洋子さんの作品を年末から一月初めにかけて3冊読み直した。
「薬指の標本」「冷めない紅茶」「完璧な病室」初期の頃の作品。
きっかけは「薬指の標本」がフランス映画になると聞いたこと。
Contents
自分にとって大きな存在の作家のひとり
「完璧な病室」「冷めない紅茶」は大学時代、初めて読んだ小川作品だったように思う。
こんな世界観のある小説があるのだと衝撃を受けた。
そしてストーリーではなく不思議な雰囲気や空気を作り出すことに主眼を置いたような作品の作り方から、「迷わず自分の書きたいこと、好きな世界を書きなさい」というメッセージを受け取った。
小説と初めて「出会った」と感じたのは高校時代、三島由紀夫の「金閣寺」を読んだときだったが、大学時代、よしもとばななさんと小川洋子さんに「出会った」ことをきっかけに、自分の書きたいもの、自分の目指す方向性がはっきりしてきたように思う。
小川さんの存在は私はとても大きい。
場面と空気感が心に残る作品
上記3冊はそれぞれ短編(中編?)集で、2作品ずつ収録されているが、それぞれがみな、心地よい世界を演出している。
小川さんの作品はある意味ではとても残酷で冷たく、時々ものすごくグロテスクだけれど、そういう有機的なものを極端に醜く汚く書き、それを排除しようとすることによって、無機的で静かで、現実なのかどうかもよく分からない、異空間にふっと入り込んでいってしまう……。
それぞれにはもちろんストーリーはあるのだけれど、読んだ後はどんどんそのストーリーの内容は薄れていき、ただ一つ一つの場面、空気だけが心に残る。
それは遠い日の記憶みたいに、静かだけれど確実に心の奥に刻み込まれる。
6作品のなかで読み返してみて一番良かったのは、『冷めない紅茶』に入っている「ダイビング・プール」。
恋とも憧れともつかない純粋なものに対する気持ちと、自分の心のなかにある残酷さが綺麗に融合している。
残酷なことをしても、それにありふれた罪悪感を抱くわけではない主人公に、かえって共感できる。ラストや、飛び込みをする男の子の体の描写が美しい。
「博士の愛した数式」もいいんだけれど、やっぱり小川さんの良さは、それだけじゃ分からないと思う。