最近のばななさんの作品はあたたかくていいなぁ。
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痛いほど研ぎ澄まされた世界観からあたたかさへ
昔のような痛いほど研ぎ澄まされた世界観はないのだけれど、そういう痛さは、年齢を重ね、自分の視野が広がると少しずつ薄れていくものだと思う。
多分それは自分の内面だけ深く貫くように見つめる視点から生まれるから。
大人になるにつれ、その痛みはもっと普遍的なものになる分、薄まる。
そして「人も同じように繊細でつらいのだ。そういう人のためになにかしてあげたい」という気持ちに変わっていく。
なんてことを、ばななさんの小説をデビュー作から続けて読んでいると考える。
私自身、昔は自分の作品に確かにあった、身を貫くほどの痛みを持った透明な感性みたいなものを、今の自分の作品に見つけられなくなっている。
でもそれは退化ではなく、生きて年を重ねているがための「成長」だと思っているから、過去を懐かしんだり、変化から目をそらすのではなく、今、ここにいて、こうやって生きている自分にしか書けないものをいつも追い求めたいと思う。
そんなことを考えるとき、ばななさんの進んでいる道は、一つの指針になってくれる気がする。
沖縄を舞台にした4つの短編
この本には沖縄を舞台にした4つの短編が入っている。
私は一番初めの「ちんぬくじゅうしい」が好きだな。
時間が経つと、そのときはとても深刻に思えた場面の記憶は薄れていき、逆にとてもささいなことに思えたシーンが、大切なものとして刻まれていることに気付く……というようなテーマがストーリーの奥にあって、そんな物事のとらえ方がとても素敵だなと思った。
「なんくるない」も分かりやすくて、軽くていい感じだ。
ところどころ、心に残る言葉があり、力をふっと抜ける気がする。「人間ってそんなにはがんばれないものだから……。そして、がんばるために生まれてきたわけじゃないから」そう言ってもらってほっとする人は多い気がする。
沖縄には私も毎年夏に行くけれど、心が疲れると無性に行きたくなる場所。でもなかなか行かれないから、そういうときは、この小説を読んで心を癒そう、って感じ。