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本屋大賞受賞作
本屋大賞を受賞した百田さんの「海賊とよばれた男」読了。
非常に良かった!
この本は、国岡鐵造という人の物語なのだけれど、国岡鐵造のモデルは、出光興業の創始者・出光佐三。
主人公の名前と会社名は違っても、かなり史実に忠実に描かれているということで、戦前から戦後にかけての日本の様子、当時の石油をめぐる状況が分かり、勉強にもなる。
経営者の鏡
でも、それよりなにより、この本から伝わってくるのは、「出光佐三」のすごさ。
先見の明があり、石炭の時代から、石油に目を付けたところもすごいが、一番のすごさは「確固たる理念を持った、ぶれない経営」に尽きる。
戦後、石油が売れなくなるという、石油会社にとっては恐ろしく大変な時期であっても、「誰一人、クビにはしない」と決め、雇用を守る。
また、「誰のためのビジネスなのか」から、決して揺らがない。
自分たちが石油を売るのは、消費者ができるだけ安く石油を買えるようにするため、という理念を貫き、石油が不足してきたからと言って、決して値上げすることなく、安い値段を維持し続ける。
たとえ自分の会社の利益にならなくても、日本という国のためになればと、他の会社がどこも引き受けなかった過酷な仕事も請け負う。
そして、自分たちは従業員という「家族」のために働いているのだと、株式は公開せず、また力のある外資にも屈しない。
そのぶれなさと、しっかりした理念は、優れた従業員も育てていく。
他の石油会社からの嫌がらせも
ただそのために、他の石油会社からは恐れられ、煙たがられ、色々な嫌がらせにも合う。
国岡鐵造は、生涯、様々な団体や企業の圧力と戦い続けた。
でも、そんな国岡鐵造の経営方針と生きざまに打たれ、資金を提供する人、常識はずれの額の融資を決める銀行もある。
そんな、ビジネスの話でありながらも、最終的には人と人の心のふれあいの話になっている構成はさすがだ。
かなり難しく、固い設定でありながら、ひっかかることなく、すらすら読めてしまうのは、百田さんの筆力だろう。
国岡鐵造と、その周りにいる人たちの男らしさに、涙腺も刺激される傑作だった。
古き良き時代じゃない
戦前・戦後を「古き良き時代」みたいには言いたくない。
この時代にも、日本にいたのは、国岡鐵造よりも国岡鐵造のような「出る杭」を叩く輩がほとんどだったわけだ。
逆に言えば、今の時代にだって、国岡鐵造(=出光佐三)は生まれ得る。
ぜひ、多くの経営者に読んでもらいたいと感じる本だった。