邦画

「ドライブ・マイ・カー」

村上春樹の小説が原作の映画。

カンヌ映画祭の脚本賞など様々な賞を受賞したり、ノミネートされ、話題になった作品。

 

私は正直昔から村上春樹の小説は苦手で、だからこの映画もあまり見るつもりはなかったのだけれど、飛行機の中で見始めたら気になり、AmazonPrimeで購入して続きを視聴。

 

一言でいうと、素晴らしい作品だった。

3時間と長いのだけれど、時間とか超越した、その世界のなかの空気に入りこんでしまう。

決してストーリーやサスペンス的要素で引っ張っていく映画ではない。

それでも、その世界に浸り、登場人物たちの未来をしっかり見つめ切りたいようなそんな気分にさせられる。

色々な映画館で公開されていたけれど、テイストとしては「単館」映画的。

その表現が分かりづらければ、「エンターテイメントではなく、芸術」ということ。

本当、すごい好みだった。

 

「ドライブ・マイ・カー」は『女のいない男たち』という短編集のなかの一作品。

映画は『女のいない男たち』に収録されている他の短編の要素も盛り込み作られている。

ただ、原作は、映画とは全然違う印象。

映画は、小説の設定だけ生かし、あとは脚本と演出で世界を構築している。脚本賞を取る訳だ、と思う。

(脚本は監督もしている濱口竜介さんと大江崇允さん)

 

主観だけれど、長編小説を映画化した作品より、短編小説を映画化した作品に傑作は多いように思う。

小説の中の「良い部分」を活かしつつ、脚本家・監督がさらに自らの出せる味を付け加え膨らませた作品。

以前「ジョゼと虎と魚たち」を見たときも、こんなに短い小説がこんな膨らませられるのだと衝撃を受けたけれど、この映画も確実に原作を超えている。

 

そして、役者もいいけれど、演出もいい。

演出というより、演技指導なのだろうか。

「ドライブ・マイ・カー」の主人公は舞台俳優&演出家という設定で、舞台稽古のシーンも多いのだけれど、敢えて感情を込めず棒読みで本読みをするというシーンがある。

また、主人公が台詞を覚えるために、妻に棒読みで相手役の台詞を吹き込ませたテープを車の中でかける、というシーンもたくさんでてくる。

その棒読みの台詞と、しっかりと感情の入った普通にうまい台詞、そしてその中間みたいな台詞がいい感じに映画の中に混ぜ込まれている感じがした。

奇妙なほど感情を排した台詞というか。

それがクールな主人公や、無口なドライバーの人物像を浮かび上がらせる。

 

主人公が演出するのがチェーホフの「ワーニャ伯父さん」というのもツボだったな(これは原作からそう。原作では主人公は演出家ではなく、俳優の立場だけど)。

というのは、私が高校時代、演劇部の部長だったときに選んだ演目がチェーホフの「かもめ」だったから、チェーホフの描き出す世界とか、人とか、台詞はすごい染みてくるものがあって。

チェーホフは「喜劇」と銘打たれていても、どの作品もむっちゃ暗い(笑)

でも底に沈み切らず、底辺をずっと這うような世界観、というかなぁ。意外とそれが好きだった。

そのチェーホフの台詞が、亡くなった妻の棒読みの台詞で何度も繰り返される(吹き込まれたテープが再生される)。

その台詞と棒読みの調子が、「ドライブ・マイ・カー」の世界自体の骨格にもなっていて、いやぁ、本当にすごいなぁと。

 

すごい抽象的なことしか書けていないようにも思うけれど、「本当、良質で、素晴らしい芸術作品だった。是非見て欲しい」とだけ伝えられたらそれでいいなと思うので、この記事はここで終わりにする。

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