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朝井 リョウ「何者」

現役世代が語る就活のリアル

半年前の直木賞受賞作を読んだ。

 

作者の浅井リョウさんは、小説すばる新人賞でデビューしたとき、まだ現役の大学生だった。

その後、就活をしながらも、精力的に小説を発表し続け、去年(2012年)の秋にこの本を書き下ろして、出版している。

確か浅井さんは去年の4月から「新社会人」をしているはずなので、自分の就活の経験を元にして、内定をとったあとにすぐ、書き始めたものなのではないか、と思われる。

今の学生の就活は「全身就活」だ、とか言われるし、新聞などの情報を見ているだけでも大変そうだなぁと思うのだけれど、小説になると、さらにリアルにつらさが伝わってきた。

そのつらさは、15年前に就活をした自分の経験とは、異なるところも多いけれど、共通する部分もあって、共感できてしまう。

 

登場人物7人の配置がいい

 この小説の登場人物は主に7人。

  • 過去に演劇をやっていたが、今はやめて就活に専念する主人公・拓人
  • 主人公と同居する、元バンドマンの光太郎(単純明快な明るい人物)
  • 主人公たちの上の階に住む同じ大学の理香(ESの添削を受けたり、OB訪問を積極的にこなしたり、精力的に就活している)
  • 理香の友だちでもあり、光太郎の元彼女でもある瑞月
  • 理香と同棲しているインテリ派の男・隆良
  • 拓人と同じ劇団にいたが、今は一人で新しい劇団を立ち上げ、毎月公演を行っているギンジ
  • 拓人とギンジと同じ劇団にいたタク先輩

このうち、はじめの4人が真剣に就活をしているメンバー。

それに対し、隆良は、「就活なんて個性のないやつがすること」と斜に構えた態度をとり、ギンジも早々に普通に就職をするという道を切り捨て、劇団の活動に専念する。タク先輩は、理系の院生なので、6人とはまた違ったスタンスに立つ。

この人物の設定がうまい。

色々なスタンスから「就活」とか「将来」というものに向き合う姿勢や、価値観の違いやぶれみたいなものを丁寧に書き出すことで、この小説はうまく成り立っている。

 

SNSやネット使いのリアル

そしてもうひとつ、この小説が成功しているのは、SNSやネットの使い方のうまさ。

メールのやり取りやtwitterを小説に取り入れている人は他にもいるけれど、浅井さんはやはりSNSが体の一部になっている世代なのだろう。

「時代を映すために使ってみました」というのではなく、小説の重要な要素として、twitterのツイートが非常に有効に使われている。

 

実際に生身で会って交わしている会話の裏で、常にSNSの違う文脈が流れているという、現代のリアル(飲み会のあと、友人が自分と一緒にいたはずの時間にその飲み会についてツイートしていることに気付いたときの違和感......)。

実際には長く顔を合わせていない相手でも、その人のしていることを事細かに知ることができてしまう、ネット時代のリアル。

 

小説を楽しむという意味でもお薦めの本だけれど、「最近の若者」とか「最近の就活」の実態を知りたい人にも、良い本だと思う。

何者何者
朝井 リョウ

 

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