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重松清「その日のまえに」

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直球のストーリーでこそ、筆力が試される

 
 重松さんの作品は、ときどき、ふっと読みたくなり、手に取る。
 この本は以前から気になっていたものの、なかなか実際に手に取るチャンスがなかったもの。
 
 7つの短編小説から構成された1冊の本だが、最後の3作は「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」という一連なりの作品になっている。この本のタイトルが「その日のまえに」でもあるし、この最後の3作が、本全体の中心になっている。
 

「その日」というのは、余命宣告された妻の亡くなる日のこと。

 
「その日のまえに」では、少しずつ体力が落ちてはいるものの、どうにか外出許可が下りた妻と一緒に、結婚してすぐに暮らしたアパートやその周辺を歩く物語。
 
 今は成功している主人公が、まだ売れず、貧しかった頃の思い出を、「でもやっぱりこの頃が幸せだった」と思いながら巡る、切ない話。
 
 そして「その日」に妻は亡くなり、「その日のあとで」主人公は少しずつ亡くなった妻との新たな関係を築き直していく。
 
 目次を見たら、「その日のまえに」を読んでいるときから、妻は決して奇跡的に回復したりはしないということが分かるし、物語は当然、妻の死に向かって進んでいく。ストーリーに何の衒いもなく、非常にストレート。
 
 それでも、予想される方向に向かって、しっかり、丁寧に描かれていくこの世界の確かさ。シンプルな設定だけに、本当に筆力のある人にしか書けない物語だなと感じる。ぐっと静かに心をつかまれる、良い話だった。
 

残りの3作も「死」がテーマ

 
 最後の3作以外は、基本的には独立した短編。でも残り4編のうち3編は病や死がテーマになっている。テーマは重たいのだけれど、それぞれにしっかりと広がる世界みたいなものがあって、心地よくも感じられる作品たちだった。
 
 なんというか、本当に上手い人って、背景とか小道具の使い方が違う。最初の作品のタイトルは「ひこうき雲」なのだけれど、この作品から「ひこうき」と「ひこうき雲」を取り外したら、もっと閉塞感のある、閉じた物語になるだろう。
 
 死という重たいテーマ、過去の自分や閉ざされた自分の未来をじっと見つめる主人公だけを描いていたら、きっとどの作品も、もっと救いがないものになっているはず。
 
 そういう閉じた世界から、読者の視野を広げさせる、「ひこうき雲」とか、「海」とか、「ストリートミュージシャン」とか……やっぱり、さすが重松さん、と思う。
 
その日のまえに (文春文庫) その日のまえに (文春文庫)
重松 清

 

文藝春秋 2008-09-03
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追記

過去の日記を整理して、追加していたら、2006年にもこの本を読んでいたことが判明!

7年間で読んだことをすっかり忘れているって、やばすぎ!! 

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