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「芥川賞に投稿するの?」はおかしい……の理由
「文学賞に投稿している」と言うと、よく言われるのが、「え? 芥川賞とか?」という言葉。
小説を書いている側の人間は、この質問のおかしさにすぐ気づくだろうけれど、多分、世の中の半分以上、下手したら8,9割くらいは、「え? その質問、なにか問題?」と思うんだろう。
なんでこの質問がおかしいのかと言うと、「芥川賞」も「直木賞」も、投稿するものじゃないから。
プロの小説家が、雑誌に掲載したり、本にして出版したりした作品の中から、主催者側が「勝手に」候補作を選んで、賞をあげるものなのです。
芥川賞と直木賞の違い
あと、小説をすごく読んでいるように見える人でも、THEエンターテイメントという感じの小説を書いている作家の名をあげて、「芥川賞とか獲らないのかなぁ」みたいな発言をすることがある。
「うーん、それは、獲らないでしょう!」……と、私は心の中で叫んじゃうんだけど、本好きな人でも、芥川賞と直木賞の違いについて考えることって、あまりないのかな。
ま、知らなくても、きっと生きていくのに問題ないんだろうけどね……。
でも、個人的にそういう発言を聞くと、もやもやするんで、一応、説明しておきたい!
芥川賞
- 純文学の作品が対象。
- プロになってまだ間もない新人が獲ることが多い。
直木賞
- エンターテイメント小説(大衆文学)が対象。
- 中堅作家が獲ることが多い。
- なので、作品に対してより、作家に対して与えられる賞のイメージもある(個人的な解釈)。
※ちなみに、どちらかの賞を獲ったら、その作家はもう一つの賞の対象から外されるので、両方受賞することはない。
そもそも「純文学」と「大衆文学」ってどう違うの?
ただ最近は、「純文学」と「大衆文学(エンターテイメント)」の境目はなくなってきていると言われていて、この区別をするのは無意味だと言う人も多い。
実際、ある作品で芥川賞の候補になった人が(結局受賞はせず)、数年後、気づいたら直木賞の候補になっていたみたいなこともある。
でも、出版社系の新人賞は、今でもやっぱり「純文学」「大衆文学」の線引きをしている。
というか、出版社系の賞は、基本、一つの雑誌が主催しているものだから、新人賞を主催している雑誌が「純文学」系なら、新人賞も純文学を対象にしているし、逆もまたしかり、ということ。
「純文学系の賞でデビューすると、大衆文学系の雑誌の編集者とのつながりがなかなかできない」みたいなことを純文学系の作家の人が書いていたのを読んだこともある。
高校で一度文系を選択すると、その後、なかなか理系に転向できないようなものか???
「純文学」は「点」 「エンターテイメント小説」は「線」を重視
そんなわけで、最近は「純文学だ」「エンターテイメントだ」なんてこだわっているのは、出版社・小説家・編集者くらいなもので、読者はあまりこだわっていないのかも……なんだけれど、好みの小説を見つけるためにも、ちょっと役立つかもしれないので、私の考えをシェア。
最近、小説は「純文学」と「大衆文学」の2つだけでなく、4つくらいに分かれていると思う。
ま、もともと「純文学」「大衆」の他に、中高生をターゲットにした「少年・少女漫画が活字になった感じの小説」=「ライトノベル」というのもあって(中高時代は私も結構読んだなぁ)、3つではあった。
でもそれに加えて、最近、「ライトノベルではないんだけれど、これは“文学”じゃないよね」という「C」の層が厚くなってきている気がする。
もともとライトノベル作家だった有川浩さんとか……文体が軽くて、娯楽漫画と似た世界観の作品。
芸術に価値があって、娯楽にはないとか、そういう良い悪いの話ではないのだけれど、小説を読むときに、何を求めているのかが分からないと、やみくもに読んでも、満足できる作品には出会えないかも、と思うわけ。
純文学・芥川賞受賞作はこんな人にお薦め
私は、小説にも映画にも、「芸術」とか「美」を求めちゃう人なので、基本的には「B」のあたりの作品が好き。
学生時代は「A」のいかにも純文学、という小説も良く読んでいた(三島由紀夫、泉鏡花とか、初期の頃の小川洋子さんの作品とか)。
図にも書いたけれど、私は「純文学」は、「線(ストーリー)」より「点(一つのシーンの描写とか、一人の人の心情とか、一つ一つのシーンの世界観みたいなもの)」を大事にしている作品だと思う。
だから、淡々と好きな世界に浸りたい……好きな画家の絵を長時間じっと眺めるみたいに……という人には、純文学はお薦め。
でも、ドラマを求めているときや、動きがないと退屈っていう人には向かないかも。
ちなみに「芥川賞」を獲る作品にも2タイプあって、「純粋に表現や描写がオリジナルですごい」って芸術性を評価されて受賞したものと、「時代を読んでいる」と、時代に合ったということで評価された作品があるように思う。
ただどちらにしても、「ストーリー性があって、飽きずに、はらはら」みたいな作品は、基本、芥川賞受賞作にはないと考えていい。
直木賞と本屋大賞の違い
受賞作が売れる賞といったら、今はNo.1が「本屋大賞」。
「直木賞」は受賞作こそ売れるけれど、候補作はほとんど話題にならないのに対し、「本屋大賞」は、2位、3位、「ノミネート作品」というだけでも、売り文句になって、実際に売れている。
私も初期の頃は、本屋大賞を獲った本は全部読んでいた。
ただ、読んでいって思ったのは、「結構、幅広いな」ということ。
2011年受賞作の『謎解きはディナーのあとで』などは、かなりライトノベルに近い小説だし、かと思うと、2016年受賞作の『羊と鋼の森』は純文学に近い作品。
ノミネートされるのが毎年10冊なのだけれど、毎年本当、「純文学だよね?」とか「純文学っぽいよね」という作品から、「ほぼほぼライトノベルだよね」という作品まで網羅されている。
書店員さんのなかにも、純文学好きとライトノベル寄りの軽い作品が好きな人と両方いるってことなんだろうけれど。
そういう意味で、受賞作を毎年追っていければ、色々なジャンル、風味の作品が味わえるけれど、「あれ、これ嫌い」というものも混ざる可能性は高い。
もし「ただのエンターテイメントじゃなくて、もっと世界観とか表現を味わいたいんだ」と思っているなら(図でいう「B」あたりが好きなら)、「本屋大賞」受賞作よりも、「直木賞」や、「吉川英治新人賞」「山本周五郎賞」受賞作を読むといいかも。
私は、「この小説、いい!」と思ったときに調べると、それがよく「吉川英治新人賞」や「山本周五郎賞」を受賞した作品だったから、逆に受賞作を読めば外さないのかも!と思った。
まとめ
小説に限らず、自分で作品を作っている人と話すと、「これは芸術性が低い(からダメ)」とか、「薄っぺらい」とか、逆に「分かる人に分かればいいという態度は傲慢だ」とか「小説は楽しめてなんぼだ」とか、色々みんな意見を持っているけれど、
結局のところ、ただの好みだから!って話だと思う。
私は「C」の小説を読むと、「しんどい……」と思ってリタイアしちゃうことが多いのだけれど、世の中には「C」とか「ライトノベル」が大好きで、「A」とか「B」の小説を読む人の気が知れない、って人も多いはずだし。
つまり、
「人と合わせる必要もないけれど、人に自分と合わせてもらう必要もない」
っていうこと。
自分が好きな作品の傾向を見極めて、素敵な読書を楽しみましょう♪
今回の記事が、「好きな小説」を見つける何らかのヒントになったら嬉しいです。