平野啓一郎

平野啓一郎「マチネの終わりに」

映画化もされているけれど、私は本で読んでみた。

ジャンル分けをすれば「恋愛小説」

 天才クラッシックギタリスト(男性)と国際ジャーナリスト(女性)。“様々なことを経験し、社会での地位も確立してきた40代”の出会い、恋愛、別れ……その後、みたいな内容。
 
 いわゆる「恋愛小説」とは違い、主人公の2人が非常に“大人”で、冷静で、分別あるところに非常に好感が持てた。
 
 
 「大人の恋愛」といっても、大抵のものは、安っぽい“感情”中心のものというイメージ。特にドラマとか、“大人の恋愛”="満たされない(つまりは自立していない)大人の安易な不倫”みたいになっている気がするし。
 
※朝ドラ以外、ドラマはほとんど見ないのに決めつけ……。
 素敵なドラマがあったら、ごめんなさい。
 
 
 この小説の主題も、恋愛というからには、もちろん“論理”ではなく“感情”の話なのだけれど、最近の“適当に作られた感じのドラマ”とはまるで違う、緻密さがある。
 
 小説のストーリー、設定、表現にしても、主人公の心の動きにしても。

こだわりとストーリーのバランス

この作者の平野啓一郎さんという方は大学時代にデビューし、すぐに芥川賞を獲ったような“天才”で、知識量が半端じゃない。
 
 巻末に「参考文献」もずらりと並んでいるけれど、一朝一夕で身に着けたわけじゃない“教養”がずどんっと底に存在していて、その土台があってこそ成り立つ、壮大なスケールの恋愛小説のように感じた。
 
 作品を読み終わって、一言私は「すごい」とだけ呟いた……。
 
 一生かけても、私にはこういう作品は書けないだろうなぁ、と。
 
 
 教養がありすぎちゃって、台詞一つ一つが異様に長く、説明的で、最初は物語に入るのに苦労して、しばらく寝かせてしまった時期もあったのだけど、5分の2くらいからストーリーが動き始め、そこからは世界に引き込まれた。
 
 引き込まれると、相変わらず説明的で長い台詞も、平野さんの作り出す世界を味わうための重要なファクターの気がしてきて、読むのが楽しくなってきた。
 
 
 私は平野さんのデビュー作の『日蝕』は最初の数ページで「???」となって、本を閉じてしまった経験があるのだけれど、『マチネの終わりに』は、力強いストーリーがあるから、ロングセラーになり、さらに映画化もされたのだろうな。
 
 自分がこだわる世界観があったとしても、そこにだけしがみつかず、大衆受けする“ストーリー”を許容できる範囲で入れ込んでいく……それが大事なのかもしれない、なんて思った。

総評

引きこまれ度  ★★★★☆
読後感     ★★★★★
美しさ     ★★★☆☆
面白さ     ★★☆☆☆

お薦めしたい人

・本当の意味での「大人の恋愛小説」を読みたい人
・お洒落な世界に浸りたい人
・哲学的な文章を読むのも好きだよ、という人
・小説を読みながら、知識も増やせたらいいよね、と思う人

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